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MDMA
3,4-methylenedioxymethamphetamine

エクスタシー、XTC、X、ADAM
 

 MDMAは、中枢神経刺激作用と幻覚誘発作用を持つ合成麻薬です。俗称としては、×(バツ)、エクスタシー、XTC、ラヴ・ドラッグ、アダムなどと呼ばれます。MDMAの化学構造(3-4 methylenedioxymethamphetamine)はメタンフェタミン(覚せい剤)やメスカリンなどと似ています。MDMAは、アメリカやヨーロッパを中心にクラブやレイヴなどで使用されるようになった、クラブ・ドラッグと総称して呼ばれるものの一種で、日本でも最近青少年の間に急速に拡がっているドラッグです。最近になって、膨大な量のMDMAが税関で押収されたりしています。

 エクスタシー・グループあるいはデザイナー・ドラッグという総称は、phenethylamine類に属するMDMA、MDA(methylenedioxyamphetamine)、DOM(2,5-dimethoxy-4-methylamphetamine)などを指します。

 エクスタシーとして出回っているドラッグは、MDMA以外のものである場合もあります。他のドラッグ同様、混ぜものが多く含まれることもあります。MDMAと覚せい剤の合剤、MDMAと覚せい剤に向精神薬を混ぜたものなどが日本でも見つかっています。

 もっともポピュラーな剤型は、錠剤ですが、カプセル、粉末などもあります。鼻から吸い込んだり(スニフ、スニッフィング)、注射を使用したり、肛門に挿入して直腸から吸収するような使い方をされることもあります。

 MDMAは主にセロトニン神経系に作用して、脳に障害を与えます。セロトニン神経系は気分の調節や怒り、睡眠、性機能、痛みなどに直接関与しています。MDMAを使用することによる危険は、コカインやアンフェタミンによる危険性と同様です。

 錯乱、抑うつ、睡眠障害、薬物への渇望、強度の不安、妄想など心理的な問題がMDMAが使用している間、あるいは使用後一週間でおこってきます。

 身体の症状も見られます。筋肉の緊張、勝手に歯をかみしめてしまう、吐き気、ものが二重に見える、急速眼球運動、失神、悪寒、多汗などです。

 脈が速くなり、血圧が上昇することは、心臓に病気を持っている人の場合特に重大です。
MDMAを使用後、ニキビのような発疹が出る場合、使用を続けると肝障害を起こすことが知られています。

 より重篤な副作用として不整脈、高体温、横紋筋融解症、低ナトリウム血症、急性腎不全などで死に至る場合もあります。このような、重篤な副作用が出現した場合は、速やかに体温を低下させ、適切な補液を行う必要があります。

 MDMAの長期使用は、脳の思考や記憶の機能にダメージを与えます。霊長類による動物実験では4日間のMDMAの使用が6、7年後に脳に障害を与えていたことが証明されました。

 MDMAの長期間の使用は、その神経毒性のために種々の神経・精神機能の障害を引き起こすと言われています。睡眠障害、気分の障害、不安障害、衝動性の亢進、記憶障害、注意集中困難などが、使用中止後2年以上にわたって続くことがあるとされています。MDMAによるセロトニン神経系の破壊は、もとに戻らない可能性も指摘されています。2)

 MDMAと似た薬物MDAは、アンフェタミンに似た作用をもち、化学構造はMDMAに類似しています。この薬物も乱用されることがありますが、この薬物もセロトニン神経系にダメージを与えることが分かっています。

 MDMAは、またその化学構造と作用の点で覚せい剤であるメタンフェタミンに類似しています。メタンフェタミンは、ドパミン神経系の変性を引き起こすことが知られています。それによって、パーキンソン症候群に見られるような運動機能の障害を引き起こします。初期の兆候は、協調運動障害(運動神経が鈍ったようになります)や微細な手の振るえなどです。

 MDMAに関係した死亡についてのニューヨークの調査では、22人の死亡のうち13人はMDMAの急性中毒、7人は物理的な外傷によるもの、2人は病気とMDMAの急性中毒の合併によるものとされています。3)

 MDMAのセロトニン系の神経への影響は、女性の方が強いという報告もあります。4)

 MDMAには、脳内の神経伝達物質の放出を促す作用があり、乱用者は、MDMAの薬理作用による多幸感、親密になれる感じ、視覚の変容、性欲の亢進、活力が出る感じなどを求めて、この薬物を使用します。

 イギリス国立奇形情報サービス(UK National Teratology Information Service)は、302例のエクスタシーに暴露した妊婦を追跡調査をしています。そのうち、10%は研究終了時にまだ妊娠中。45%は調査からドロップアウトして、136例についての調査です。

 11例が流産、48例が人工妊娠中絶で、最終的に生まれたのは78例。そのうち66例は正常。12例に先天奇形が認められました。15.4%です。これは、一般の2〜3%と比較すると驚異的に高い値と言えます。5)

 MDMAを使用する大学生に関する大がかりな調査では、MDMAを使用していない学生に比べて、MDMAを使用する学生には次のような傾向が有意に認められるとしています。大麻の使用、アルコールのメチャ飲み、喫煙、複数の異性との性交渉、芸術やパーティーを重要と考える傾向、宗教の重要性を認めない傾向、友人とより多くの時間を過ごし、勉強に費やす時間が少ない。一方、その他の違法薬物と違って、MDMAの使用者は成績の面で劣ることはないという結果も出ています。1)

 MDMAは、1912年に初めて合成され、メルク社が1914年に特許を取りました。そして、1950年代に化学戦争の調査として、合衆国政府が調査をしていますが、長く忘れ去られた薬物でした。この薬物が、再発見されるたのは1970年代です。サイケデリック・セラピーという特殊な心理療法を行うセラピストによって使用されるようになります。
 1980年代初頭、この薬物は、特にテキサスなどでエクスタシーという名前で、医療目的をはずれて使用され始めます。合衆国では1985年に、医療目的以外でもセラピーのためでも使用が禁止されます。

  1. "increasing MDMA use among college students: results of a national survey." J Adolesc Health 2002 Jan;30(1):64-72
  2. "Long-term neuropsychiatric consequences of "ecstasy" (MDMA): a review." Harv Rev Psychiatry 2002 Jul-Aug;10(4):212-20
  3. "Ecstasy (MDMA) deaths in New York City: a case series and review of the literature." J Forensic Sci 2002 Jan;47(1):121-6
  4. "Effects of dose, sex, and long-term abstention from use on toxic effects of MDMA (ecstasy) on brain serotonin neurons." Lancet 2001 Dec 1;358(9296):1864-9
  5. "Congenital anomalies after prenatal ecstasy exposure"Lancet 1999 Oct 23;354(9188):1441-2