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Drug Information
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有機溶剤・吸入剤
inhalant
アンパン、純トロ
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有機溶剤というのは、シンナー、トルエン、ボンドなど揮発性で、脂溶性の物質を溶解する化学物質の総称です。これらは、その揮発性を利用して袋に詰めて気化した状態で吸い込むことで摂取されます。同様に、ライターのガスなども吸引して乱用する目的で使用されることがあり、吸入剤乱用(inhalant
abuse)と呼ばれます。
これらの化学薬品はしばしば数種類の有機溶剤の合剤であり、シンナーも実際は種類の異なるいくつかの有機溶剤の合剤です。
欧米の諸外国でも、有機溶剤の乱用は1930年代から60年代にかけて一時的に問題になりましたが、ヘロインやコカイン、大麻などの薬物乱用が中心的な問題になって深刻な社会問題にまでは至っていません。ただし、一部の国、特に発展途上国などでは現在も子どもたちの間に拡がっている有機溶剤乱用は深刻な問題です。逆に日本では有機溶剤の乱用が青少年の薬物問題の中心であったため、その他のドラッグへの移行が少なかったのではないかという説があります。
しかし、不安やフラストレーションに対する対処行動として、薬物を乱用するという行動パターンは、いかなる薬物でも学習されてしまうことが考えられます。依存性や危険性の比較的少ないドラッグも、ゲイトウェイドラッグ(入門ドラッグ)としてよりリスクの高いドラッグに至る最初の一歩になってしまうという考え方もあります。
日本では、1967年頃に新宿東口に集まっていた若者の集団的な乱用に始まると言われています。このような動きは、当時欧米諸国で拡がっていたヒッピー・ムーヴメントと呼応するように拡がりますが、そのような有機溶剤乱用は一時的なものに終わり、その後はより低年齢層の非行の一つとして拡がっていきます。ヒッピー・ムーヴメントに呼応した動きに近い動きは、MDMAなどを中心にした最近の”クラブ”あるいは”レイヴ”でのクラブ・ドラッグの乱用に見られます。
法的規制などもあって、時代と共に乱用される有機溶剤は変化し、”シンナー遊び”から70年代には”ボンド遊び”が主流となり、現在乱用される有機溶剤はトルエン単体(”純トロ”)が主流になっています。
有機溶剤は薬物としては、血液脳関門を通過し容易に脳に達する性質を持っているために、中枢神経症状を引き起こします。
急性症状としては、中枢神経の麻痺による作用によって酔っぱらったような感覚や気分が軽くなるような感覚が起こり、運動失調によってフラフラして、呂律が回らなくなります。さらに、大脳の高等な機能を抑制するために、急に怒りっぽくなったり、攻撃的になったり、時には非常に残虐な行動を起こしたりすることもあります。このような脱抑制による行動は、時に事故や傷害事件に結びつくこともあります。
また、知覚の変容がおこり、さまざまな異常感覚を経験します。このような異常知覚は、ある程度自分でコントロールすることが可能であり、このような体験を求めて有機溶剤に依存する結果となります。
有機溶剤の急性中毒は、その抑制作用が脳幹部に至ると呼吸中枢の抑制が起こり時に致死的な場合があります。
有機溶剤の乱用では、最後は脳幹の麻痺による呼吸停止に至る麻酔作用の中間の症状が出現します。いわゆる”ラリっている”状態は、有機溶剤による麻酔作用の中間段階に起こる”興奮期”の作用と考えられています。
有機溶剤を吸引すると、まずは頭痛、めまい、耳鳴り、顔面蒼白あるいは紅潮、吐き気、嘔吐、痙攣など非常に不快な症状が見られます。吸引に馴れて来るまでは、有機溶剤の吸引は不快なものです。この段階で乱用をやめる子どもも少なくないと思われます。一方、このような初期の不快な気分は乱用者にとっては常識であり、乱用仲間がいる場合にはこれらの知識が伝達されると考えられます。この時期に介入することは容易ではありませんが、乱用を止めるには、この時期の介入がもっとも有効でしょう。
慢性的な中毒によって、脳の神経細胞の髄鞘を溶かしてしまうといわれており、その結果脳が萎縮する可能性が指摘されており、脳萎縮がひとたび起こればその回復は困難です。そのほか、視力障害、多発神経炎などが見られることがあります。
有機溶剤による死因は、以下のものが考えられています。
- 過度の麻酔による延髄麻痺
- カテコールアミン遊離の結果起こった過敏反応による心不全
- 物理的窒息
- 粘膜刺激による声帯浮腫、肺水腫、迷走神経刺激による喉頭痙攣
慢性的な乱用による精神障害としては、様々な障害が見られ、急性中毒による”生命における死の危険”に対して”社会生活における死の危険”※1と呼ぶ人もいる。
慢性中毒による精神症状としては、幻覚や妄想など精神病症状、イライラして落ち着きがなく、すぐに腹を立てる易努性などが見られたり、何事にも無気力で無為な状態に陥る無動機症候群が高頻度に出現します。
また、覚せい剤などと同様に精神病症状が一度治まった後に再び再燃するフラッシュバック現象も見られます。
有機溶剤乱用による中枢神経の障害として、脳波の異常や脳の萎縮が報告されています。これらの変化が有機溶剤によるものなのかどうかは、乱用以前の脳の状態と比較する必要がありますが、それは実際には困難なので、これらの変化が乱用以前からあったものなのかは議論の分かれるところです。しかし、そのような回復困難なダメージを脳に与える可能性があることは、知っておく必要があるでしょう。
- 田所作太郎著 『麻薬と覚せい剤』 星和書店 1998
- 和田 清 著 『依存性薬物と乱用・依存・中毒』 星和書店 2000
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