はじめに

『○○相談と権利擁護』

『○○相談』を始めるに当たって−その使命−

『薬物相談』の現状

『薬物相談』を進める前に

『薬物相談』を進めてみよう




薬物相談に応じるこころがまえ


『○○相談と権利擁護』

 『○○相談』と権利擁護の種類を便宜的に2種類の形で考えてみました。もうお気づきのことだと思いますが、その違いは『相談』は非社会的な段階での行為と考えられますが、『○○相談』は社会化された行為です。『相談』と『○○相談』は同じ相談という言葉を使っていますので、内容的には連続していますが、違いがあります。違うところは解決能力の差にあるかもしれません。『○○相談』の評判の善し悪しは、解決能力の差によって考えられることが多いのですが、実際は権利擁護に基づいて実施されているかどうかという点が重要なことなのです。
 少し考えてみましょう。『相談』は来談する人が相談員を選び、相談員の相談行為が社会化することまで期待していないことが多いのです。自治会の会長さんに相談するときに、『隣の家の住人は朝から大きな声を上げて体操をしているのですが、何とかなりませんか。隣の家には内緒にしています。会長さんに相談に来たことは内緒にしておいて下さいね』と相談したとします。自治会の会長さんによって解決方法や考え方の違いはあるでしょう。この自治会長さんは役員会で図り、回覧板で『早朝からの犬の散歩やウォーキングは近所迷惑になりますから、工夫をしましょう』と他の連絡事項の中に一緒に書き込んで連絡しました。一つの方法を例示したに過ぎませんが、直接警察署に連絡をしたりして、社会の問題であるような方法はとらなかったということです。
 『○○相談』では、『私の息子が数年前から覚せい剤を乱用していて困っています。クスリ欲しさに私を脅迫し、言うことを開かないと暴力を振るい、お金をとっていきます。これまで警察署からいろんな機関に相談に行きましたけど、これといった解決に結びついていません。昨日もお金をせびったので、拒否したところ殴る蹴るの暴力を受け、痛くてお医者さんのところへ行ってきました。肋骨骨折ということで、左の肋骨が3本折れていました。もうどうしたら良いのか分かりませんわ』という相談を受けたとします。相談員は『これはひどい。傷害罪に該当する』と思い、警察署生活安全課に『今こういう相談が来ていますが、事件化して刑事罰を受けた方が本人のためになると思いますが、如何でしょうか』と連絡しました。警察署が動き来談者宅に急行し、本人を逮捕して取り調べが行われ、尿検査等の結果から、覚せい剤使用で逮捕される形で相談が終わりました。この相談はこれで終了しました。来談者の解決したい問題を相談員は効果的に解決できたことになります。しかし権利擁護という点から見たらどうなるでしょうか。
 来談者は息子ではありません。息子の父親です。これで来談者の問題は解決できましたが、息子の問題解決につながったでしょうか。ではこの例示で何が問題だったのでしょうか。この例示での問題は、息子の覚せい剤乱用であって、この乱用がなくなれば良いということになります。来談者と息子の関係に目を向け、来談者に適当な距離をとることによって、暴力を受けなくてすむ方法を考えることもできます(覚せい剤依存症という病気の認識)。その間に息子が相談に行くことのできる相談機関を紹介することもできます(相談・医療機関等)。あるいは、同じ悩みを抱える相談者のグループを紹介することもできます(セルフ・ヘルプ・グループの利用)。問題がはっきりと相談員に認識できれば、解決に向けたさまざまな方法が計画できます。ここで権利擁護の考え方をまとめておきます。

権利擁護に基づいた『○○相談』

1) 常に確定した問題になる人(クライエントと表現します)の抱える問題を解決できるような、方策を引きだすこと(アセスメント)を心がけること。
2) 問題の解決にあたっては、クライエントの自己決定権を尊重すること。
3) クライエントに対して正確な情報を提供すること。
4) クライエントの考え方を尊重した実践(プランニングとインプリメント)をすること。
5) 実践した経過についてはクライエントに正しく報告すること(モニタリングとエバァリュエーション)そしてその結果に基づいて、再度新しい計画と実行の方法を考えること。

注釈
  1. 『常に確定した問題になる人(クライエントまたは来談者と表現します)の抱える問題』と持って回ったような表現をしています。例示では、「息子の関係者」が困り果てて相談に訪れています。「息子の関係者」の問題の解決のためには、脅迫され、金銭を強奪されないようにすることが解決につながると思われた相談員もいます。現に例示では、相談員は息子の逮捕をもって、問題を解決しています。ところで良く考えてみると、問題になっているのは、息子が覚せい剤を乱用しているということです。乱用という実態がなくなれば問題が解決すると考えると、問題を抱えているのは、息子です。息子が確定した問題になる人と考え、クライエント(本当に解決を求めている人)とするわけです。
  2. 解決に当たっては誰が見ても分かる形が望ましいわけです。共有化された問題に対して、解決に向けて計画(プランニング)して、実行すること(インプリメント)が求められます
     例示の中では、相談員は覚せい剤を乱用している息子が覚せい剤依存症(第U章U−2薬物依存者の心理参照)であることを理解させ、関係者がとるべき方法を示唆しています。